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V73X  マーシャル諸島



■旅の始まり

   V73X (ex V73XX) 三宅 広幸

旅は、ひょんな事で始まるものですよね。
今までも、その前なら考えた事もないところへ旅立つ事があったけど、それだって元を辿れば小さな切っ掛けだったのですから。

高校の古文で初めて出会った「奥の細道」を覚えていますか?
「余いずれの年よりか、漂白の思ひやまず、片雲の風に誘われて...」と云うアレです。
もっと云うと、「旅に病んで夢は枯れ野をかけめぐる」...これこれ...これですよ!
もちろん私だって、自らすすんで旅先で”ぽっくり...”なんて思っちゃいませんが、旅に出かける動機と云うものには、自分の身を引き替えても出かけたい欲求があるものですね。
さぁて、初めての国、マーシャル諸島への旅立ちです。

群馬在住のアクティブDX'erの中で、JH1QVW斉木さんとJA1VND堀越さんは、電波の上でお目にかかる事が多いです。
もちろん私が海外に出かけた時も、このお二方からお呼びいただく事がしばしばありました。
昨年暮れのZL7(Chatham)から帰国後、みやげ話しをしている中で、「次は3人で何処かへ行こう!」と云う事になり、KH4(ミッドウェイ)なんかどうかな?...って雑談していました。
たまたま、その同じ時期に、私がいろいろ航空券を頼んだりしている旅行会社が「マーシャルに日本人がいて、無線の免許取得をお手伝いできます」と云って来たのが、すべての事の始まりなのです。
この旅行会社は、小回りが利くので、私も信頼を置いておつき合いさせていただいています。
そういうお話なら、ちょっと調べて見ようか...って事になりました。
さぁ、こうなると、大抵は実行に向けて加速度がつくものです。
特にマーシャルは、私にとってずっと以前から気にはなっていたので、なおさらでした。
何が気になっていたかと云うと、この国に行くには日本からの直行便がなくて、アイランドホッパーと呼ばれる「空の各駅停車」に乗らなくてはならない事を知っていたからです。
アイランドホッパーなんて響きがいいじゃないですか。
しかも、到着まで9時間かかるそうですよ。
ひぇ〜って喜び(?)の雄叫びを上げたくなりますね(笑)



V73Xのオペデスク
撮影用にノートPCを除けてあります。

旅行会社から見積をもらったところ、思っていたよりずっと安い事が分かり、早速JH1QVW斉木さんに連絡。
彼も「これは安い!」と乗り気な感じ。
加えて免許取得は、営利目的だと先方(現地の日本人の方)に法的問題が出る恐れがあるので、あくまでも彼の勤めるホテル(ロバートレイマーズ)に宿泊される方へのサービスとしてなら「実費」で代行すると云う話しでした。
実際、通信料と申請料込みで$15と云う事でした。
これなら充分許容範囲です。
私の過去の経験で云うと、この辺りの地域のハム免許取得は結構大変で、日本人的感覚で云うと、決して実務的と云えない役所と交渉しなければならないケースが多いのです。
実務的じゃないと云っても、唯一その国の主管庁ですから、そこからライセンスを取得する以外に道はないのですからね。
一時のV63のライセンス取得が大変だったのを、ご存じの方も決して少なくないでしょう。
そうこうしている内に、現地から旅行会社に申請書が送られてきて、その内の一枚が私の手元に届きました。

申請方法は、その申請書に必要事項を記入して、免許証と免許状それぞれの英文証明書、それにパスポートのコピーをつけて送れとの事でした。
そしてコメントとして、もし希望のコールサインがあれば、3つまで書いて良いとあるじゃないですか。
ひゃ〜これはウレシイ!....希望が湧くなぁ〜

  

申請書と希望コールサインを書いた表書き
クリックで拡大

この後、JH1QVW斉木さんに連絡して、家の近くの「つぼ八」で一杯やりながら、ここまでの事情を話して、斉木さんの参加を促しました。
彼も出来れば行きたい、との希望を語ってくれて、事態を充分理解してくれました。
しかし、彼は熟慮した結果、時期的に仕事が非常にQRLで、それを置いて出かける事は叶わないと判断され、今回は見合わせると英断を下されました。
私と違って責任ある立場の斉木さん、本当のお気持ちとは別の判断をせざるを得なかった事は、さぞ残念でありましたでしょう。
お察し致します。
数日後、今度はJA1VND堀越さんに連絡、同様の内容をお伝えして、堀越さんからは同行のご意志を確認しました。

行くとなれば、準備が忙しい。
免許の申請は最優先事項ですが、アンテナの準備だってしなければならない。
いつもの事だけど、荷物の重さだって考慮しなければならないし。
今回は、堀越さんが同行してくれると云っても、荷物の問題が劇的に改善する訳じゃない。
決められている重さを守るようにやってみなければならない。
今回は、JH6RDJ梶原さんが小田原の「竿好」から釣り竿を購入する際に、10mの一番長い竿を「V7ペディへの寄付」と称して、私のために購入してくれました。
(Many thanks to JH6RDJ)
私が以前から持っている同様の10m竿と合わせて、デルタループを作る事にして、これをHFのメインアンテナに決めました。
あと、堀越さんが3.5/7のダイポールを持って行く事にして、アンテナはFIXしました。

思いもかけずトラブったのは免許申請でした。
出発を7月2日と決めたあと、ちょっとした手違いで免許申請書を送るのが遅くなったのは確かですが、6月の半ばを過ぎても現地に届いていないので、少々慌て始めました。
こちらとしては、やはり渡航時にライセンスの原本を手元に持っていたい訳です。
何故なら、リグやアンテナの他、得体の知れない(税関職員からすれば)機器を持って行く以上、そのよりどころが必要だからです。
その頃、JA1VND堀越さんが、現地マジュロにお住まいのV73MJ木村さんと18MHzでQSOに成功していて、我々の渡航を伝える事ができたのです。
さっそく、私が教えていただいた木村さんのメールアドレスにメールを送り、今の事情をお話したところ、力になって下さる旨、すぐにご返事をいただきました。
彼が的確な指示をしてくださり、また数多くのご好意のおかげで、出発までに免許を無事に取得出来ました。
時間的に原本を入手出来ませんでしたが、木村さんのご手配を通じて旅行会社から免許をFAXで受け取りました。
そして、最大の関心事であった、コールサインは希望のものがアサインされているではないですか!
素晴らしい!何と云っても、堀越さんがダメもとで申請した、V73AAが免許されているではないですか!
私は第1希望のV73DXは既に発給されている、と云う事でダメでしたが、第二希望のV73XXがもらえました。
さぁ、これで出発の準備が整いました。
この日は出発の1週間前でした。

HFから430まですべて1KWのライセンス。
壮観ですね

出発

7月2日の朝、私の車で堀越さんを迎えに行きます。
約束の8時30分を大きく遅れて堀越邸に到着。
思えばこの時からつまづいたのかな??....
またか...って感じですが、出発の数日前から、仕事上で計画している、この夏の間のプロジェクトが急に忙しなくなって、実は仕事量が一気に増えていたのです。
出発の2日前から、ほとんど夜は深夜残業状態で、まともにカバンに詰める事もできず、家に帰ると倒れるように寝るだけだったのです。
出発の朝は、その遅れを取り戻すために全力で努めたものの、思うに任せず遅れてしまった訳です。
当初の話しでは、高速道路は使わず、ゆっくり田舎道を成田まで走ろう、と決めていたのに、時間が押してしまったため、仕方なく高速道路へ。
関越道から外環、首都高、湾岸、東関東自動車道と、いつもの道を通り成田へと向かいました。
予定通り、チェックインの1時間前に成田市内に入ったので、回転寿しで昼食を摂りました。
何せ、ご飯とみそ汁がないと生きて行けない(?)私ですから、しばらくの間の名残にと、堀越さんを説得してご同伴いただきました。

成田では、いつものパーキングに車を預けて、第二ターミナルに送ってもらいました。
いやぁ〜この時期にしては人が多いこと!
やはり、グアム、サイパン便が出る時はにぎやかになりますね。
無事にチェックインを済ませて、後は搭乗を待つだけ....
仕事の電話はかかってくるけど、ここまで来たら気持ちはもう出国済みだぁ〜
何があっても、もう行くぞぉ〜
7月2日、16時過ぎに無事コンチネンタル航空機はグアムに向けて飛び立ちました。

グアム

グアム空港についたのは、現地の20時過ぎでした。
今回は、私のジュラルミントランク2個とアンテナケースに、釣り竿ケースの4個を預け荷物としたため、どうしてもピックアップに時間がかかります。
この日のグアム入国も、同便の到着組のほとんど最後でした。
確か送迎の人が来ているはずなのですが....あ、いたいた!
日本語の流暢な方が待っていてくれました。
この日は、事実上のトランスファー(乗り継ぎ)なので、ホテルはどこでも良いと旅行会社に指示しておきました。
連れて行かれたのは、グアムプラザホテルと云うホテルでした。
例の、ホテルが密集する地域にありますが、ランクは2つ星でしょうか....
でも、明日の朝は早くに出発するし、シャワーも空調も申し分ないので、これで充分満足でした。
堀越さんと前途の無事を願って、ホテル隣接のアメリカンレストランで祝杯を挙げました。

翌朝、6時に時間通りのピックアップが来て、再びグアム空港へ向かいます。
同じ車に日本人のご夫婦が同上されていて、ご挨拶を交わしました。
このご夫婦は、結局我々と同じ便でマジュロに行かれ、同じホテルに宿泊される小林ご夫妻でした。
グアム空港で、セキュリティのチェックを受けて無事に機上の人となりました。
以前からずっとあこがれていた、これが通称アイランドホッパー(Islands Hopper)なのかと思うと、ちょっと嬉しかったですね。

アイランドホッパーは、コンチネンタルミクロネシア航空が運行するフライトで、朝早くグアムを出て、中部太平洋に点在する島々(国々)へ停まりながら、最終目的地のハワイを目指す飛行機です。
機体はB737-800ですから、さほど小さくはありません。
乗り心地は、まぁ普通ですね(笑)
ほぼ定刻の朝8時過ぎに、グアム空港を飛び立ちました。
機内はほとんど満席で、やはりミクロネシア系の人々が多い様です。
この便に関しては、日本人とおぼしき方は目に付きませんでした。
(この時、先の小林ご夫妻には気付きませんでした)


アイランドホッパー

アイランドホッパーは、グアムを飛び立つと、最初にチューク環礁(旧トラック環礁)に降り立ち、次にポナペ(ポンペイ)、コスラエ(V63AO西村OMがいらした事で知られる)、クワジェリン、マーシャル(マジュロ)と飛んで行きます。
チュークに降り立つ直前から天候が悪化して、降りるタイミングではかなり機体が振られました。
実は私個人は、ここが旧海軍の連合艦隊が基地としていた事もあり、多少の思い入れもあったのですが、天気が悪くてその全景を見る事はできませんでした。
アイランドホッパーは、クワジェリンを除いて途中でトランジットと云って、一旦飛行機から降りて空港周辺を散策する事ができるそうです。
その際は、搭乗券の半券とパスポートを所持していれば、事実上の入国もできるのです。
それが頭にあったのですが、このチュークでは横殴りの雨と風に恐れをなして、堀越さんと2人で飛行機内から眺めるだけでした。
小1時間駐機したあと、新しい乗客を乗せて再び離陸しました。
次はミクロネシア連邦の首都のあるポンペイを目指します。
約1時間の飛行のあと、ポンペイに着陸するとアナウンスが入ったものの、陸地が見えなくてまるで海に降りるように降下を続けるので、かなり恐いです。
みるみる海面が目の下に迫り、このまま水上機のようにフロートを使って着水するのではないかと錯覚するほどです。



本当に陸に着陸できるのだろうか?

一瞬、茶色いものが見えたと思った瞬間、タイヤが地面につく衝撃と同時に、まるでヘビの様に機体が左右にくねくねよじれるのです。
乗っている方は気が気ではありません。
おまけに急激なブレーキがかかって、上体が前のめりになったと思ったら、飛行機が急に180度向きを変えて今来た方向にタクシーし始める始末。
「堀越さん、いやぁ〜今のはヤバくなかったですか?」
思わずひきつった私の声....



ポンペイ(ポナペ)空港

ここでもぞろぞろと人が降りて行き、そして新しい人が乗り込んで来ました。
席ももう少し空くと座りやすいのですが、仕方ないですね。
やはり小1時間停まった後、再び雨と風に向かって飛び立ちました。

サンゴ礁で出来た島が多い中で、ポンペイとコスラエは本来の島と呼べるところでした。
ポンペイの次に降り立ったコスラエは、V63AO西村OMがアクティブだった事で知られていますね。
ここも空港としては決して大きい方ではなく、我々が乗ったアイランドホッパーも、ランディングと同時に急ブレーキをかけて再びくるっと方向転換してターミナルへ向かいます。



コスラエ空港のターミナル

ここでも機外へ降りたかったのですが、ちょうど荷物チェックが入ったので、降りる機会を失いました。
この荷物チェックとは、持ち主の申告のない荷物は一旦機外へ持ち出すと云うもので、かなり厳しいです。
我々の時は、機外に出る時は手荷物も持って行くようにアナウンスがありました。
しかし、20Kg近いリグを抱えて降りる気はしないので(そんなの手荷物じゃない!の声が聞こえそう)、荷物チェックがある時は事実上降りられませんでした。
アテンダントが、棚に入った荷物をひとつひとつ持ち主を確認して行くのです。
こんなところは、やはりアメリカ系の航空会社である事を思い出させますね。



クワジェリンへの着陸直前
レーダーサイトがいつもありました

アイランドホッパーはコスラエを飛び立ち、次に降り立ったのが、クワジェリンです。
V73ATなどでハムのアクティブな島ですが、残念ながら我々はこの島で降りる事を許されません。
私が着陸前に空から眺めた姿は、紛れもないアメリカの島でした。
かつてKH4に行った時に見たものと、全く同じものをこの島に見ました。
それは芝生です。
白いレーダードームと、こぎれいに刈り込まれた芝生は、こんな太平洋のど真ん中でもアメリカ合衆国の体裁の整えているのですから、凄いですよね。
クワジェリン自体はマーシャル諸島共和国に属しますが、今までのミクロネシアの島や同じマーシャルのマジュロと比べても違いは歴然です。
白い管制ビル(とおぼしき)には、無数のアンテナが立っていて、この島が紛れもない軍の島である事を示しています。
飛行機の中から眺めているだけでも、外に溢れるアメリカ人(白人)の数に驚かされます。
また、タラップのすぐそばには、武装警官が2名降りて来る人をチェックしているのも、この島の位置づけを物語っているようです。



クワジェリンの空港ターミナル
他の島々とは規模も設備も格段の差があるようだ

このクワジェリンで気になったのは、滑走路がちょうど細長い陸上競技のトラックのような格好をしているのです。
その滑走路に挟まれた中央部が、何故コンクリートで舗装された上に芝生が植えられているのかが不思議でした。
この答えは、後にV73MJ木村さんに教えて貰うことになるのですが、いずれにしても絶海の孤島に、ハイテクの匂いと間違いなくアメリカの威力を見せられました。
さぁ、あと1つ....
朝グアムを発ってから、もう7時間以上が経過しています。
既に太陽は西に傾き、夕方の風情です。
飛行機は、ぐいっと機首を上げ、あっと云う間に緑に覆われたきれいな島を後にしました。
さぁ、あと1時間で目的地のマジュロだ。



地下水の出ないサンゴの島は、雨を滑走路全体で集める工夫がされている。
滑走路中央の芝生は保水を目的としたものだろう

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