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ZL7/KH0PR CHATHAM ISLAND 運用記


1.プロローグ

海外から運用することが好きな当局は、無線のほかに「飛行機に乗る」ことも大変好きなことの1つです。好きなことが同時に2つできるので、海外運用の回数が増えたというところでしょうか。
数年前にあきらめたニュージーランドのチャタム島(ZL7)でしたが、どうしても乗りたい飛行機(
CONVAIR-580)がニュージーランド本島から飛んでいるため、「これがリタイアする前に」と考えていました。
具体的にリタイアするという話があった訳ではありませんが、日本のYS-11と同じような時期に製造されているため、早いうちにと思った次第です。
国内のYS-11は、2006年度中のリタイアが決定していますので、記念に乗るなら今のうちです。今回のDXホリデーにあたり、2004年の6月にニュージーランドまで、マイルを使用した特典航空券を手配しました。

 

2.アメリカの免許

日本の免許ベースではニュージーランドでの運用許可が下りないことは、数年前に問い合わせてわかっていました。
どうにかならないかとインターネットで調べてみたところ、アメリカの免許で許可が下りる、それも事前の申請が不要であることもわかりました。
「エクストラのライセンスを取るしかない!」
と思いました。
次に東京で試験が行われるのは、8月のようです。
試験までは、2ヶ月しかありません。モールス(エレメント1)の試験はまあ楽勝(試験内容が変わる前なら絶対に無理)ですが、テクニシャン(エレメント2)とジェネラル(エレメント3)は、2つ合わせるとクエスチョン・プールが943問もあり、今回はエクストラの試験をあきらめることにしました。

8月の試験では、エレメント1から3まで、無事に1回で合格することができ、1ヶ月ほどしてKH0PRのコールサインが下りました。次の試験は10月だったのですが、同僚の結婚式と重なりパスするはめに。

ロタの青空と海

2004年12月には、KH0PRの免許地であるロタ島(OC-087)からQRVしました。
持って行ったアンテナは、バーチカルとギボシアンテナでした。両端が地上高1mになってしまいましたが、1.8MHzのフルサイズINVを張ることができ、多くのJAとQSOできました。
Wとは1局だけ「339」のカスカスでQSOでした。最近、ドイツのSWLからレポートが来ました。また、交信した覚えのないヨーロッパの局からQSLが届いたのですが、ヨーロッパはUA3が聞こえたのみですので、「
NOT IN THE LOG」で返送するしかありませんでした。う〜ん、残念。
また、冬の時期に、トライしたいですが、アンテナをどうにかしないと・・・。

次の試験は今年の3月ということで、まじめに準備に取り掛かったのは、年が明けてからとなりました。
さすがにエクストラで、レベルが違うと感じました。
無線工学が苦手な当局は、理屈で理解できない問題は、丸暗記するしかありません。
「本当にこれでいいのだろうか」と思うこともありましたが、「免許は取ったもん勝ち!」と割り切りました。
エクストラのクエスチョン・プールは805問。なかなか大変でしたが、解説書をインターネットで見つけてからは、理屈で理解できる問題も増えました。
試験会場で、「合格です」の声を聞いた時は、とてもうれしかったです。

3.航空券と宿泊先

エクストラに合格してすぐ、ニュージーランド本島からチャタム島までの航空券を、旅行代理店にお願いしました。
国内で発券できるのはノーマル運賃しかなく、プロペラ機で2時間ほどの距離でしたが、往復で8万円以上もしました。
インターネットでは、ニュージーランドの旅行代理店で5万円台の航空券がありましたが、トラブルが恐かったため手を出せませんでした。
ただ、例の古い飛行機を使用していることが確認でき、期待が高まります。この飛行機がチャタム島へ飛んでいなければ、今回のZL7/KH0PRの運用はありませんでした。最終的な日程は、次のようになりました。

4/29 Tokyo     16:55−Bangkok   21:25  TG677

4/30 Bangkok    18:15−Auckland  12:30+1 TG991

5/ 1 Auckland  15:30−Wellington   16:30   NZ445

5/ 2 Wellington   13:00−Chatham Is   15:45   CV21

           (Chatham島滞在  45日)

5/ 6 Chathma Is.   10:30−Wellington   11:45   CV12

5/ 7 Wellington  10:00−Auckland  11:00   NZ418

5/ 7 Auckland  14:10−Singapore 20:45   SQ286

5/ 7 Singapore 23:40−Tokyo     07:30+1 SQ998

 

また、チャタム島の情報を探していたところ、ZL7Cなどを実際に運用した実績のある、JF1OCQ/三宅さんのホームページが見つかり、渡航前にいろいろな情報を得ることができました。(Tnx 三宅OM!) 
宿泊先は、チャタム島の情報が載っているホームページ(http://www.chathams.com/) で見つけたチャタム・ロッジ (Chatham Lodge) にしました。
数年前には、
G3SXWG3TXFが利用したとの情報もありました。ロッジに連絡を取り、事前にアンテナの設置と運用の許可を得ることができました。
  あとの問題は、例のチャタム島への飛行機に、
70Kg近い荷物を載せてもらえるかということでした。
通常、客室となっている部分の半分ほどが貨物室になっているタイプの飛行機でしたが、YS-11クラスの大きさですので何かあると載せてもらえない可能性があります。
こちらも事前に連絡を取り、重量
1Kg当たり2.6NZ$を支払えばOKとの返事をもらい、荷物搭載の問題はなくなりました。
三宅さんのアドバイスに従い、運行している
AIR CHATHAMS からの e-mail を印刷し、ウェリントンでの最悪の事態に備えました。

4.荷物梱包

  当初、持って行くアンテナはバーチカルとギボシDPINV)のみを考えていたのですが、やはりビームアンテナが欲しくなり、ミニマルチ・アンテナに無理を言って、出発に間に合わせてもらうことにしました。
HX-52Aのオーダーを入れたのが、出発の2週間ほど前だったことと、連休前の駆け込みオーダーが数多く入っていたこともあり、現品の受け取りは、成田空港のGPA(宅配便受け取りカウンター)でとなりました。
 
また、7MHzのGP用に、10mのグラスファイバー製の釣竿も購入しました。
月刊ファイブ・ナイン(59)の5月号にアース・マットの記事が掲載されているのを見つけ、さっそく作ってみることにしました。
移動運用のために、コネクタを使用して分解できるタイプとしました。
手元にAWG22の電線があったため、5mx8本と、8mx8本の計16本のケーブルを作り、河原で実験してみました。
7MHz用に10.5mのエレメントを準備し、50cmほどを釣竿の先端から飛び出させました。16本のケーブルを地面に這わせ、コネクタをつないでいきます。アンテナアナライザでSWRを計ったところ、全くの無調整で「1.1」というすばらしい値を示しています。
リグを河原まで持っていくのも面倒だったため、電波は出しませんでしたが、問題はないでしょう。(実は、余計なことをしたため、現地で問題を引き起こすのですが・・・。)

出発まで1週間ほどとなり、荷物を梱包します。リグ、アンテナチューナ、電源、ノートパソコン、縦振電鍵、アンテナアナライザ、RTTYインタフェース一式、ZLOGインタフェース一式、ギボシアンテナ、GPアンテナ、10m釣竿、20m同軸ケーブル3本、ステー用ロープ、ライセンス、ログ用ノート、工具一式、着替え、防寒着(寒いらしいので)といったところでしょうか。
これらの荷物を、小型スーツケース、釣竿ケース、それに機内持ち込み最大のバッグに詰め込みます。
梱包したスーツケースと釣竿ケースは、予め成田空港に宅配便で送りました。

5.出発

  いよいよ、出発の日を迎えました。バンコク行きの便は夕方でしたが、午前中のバスで成田空港に向かいました。
早くに成田へ行くのには理由があります。
以前、購入したアンテナの段ボール箱が雨に濡れ、ひどい目にあったことがあるのです。そこで100円ショップで見つけた幅が広いセロハンテープで、箱の補強をすることにしました。荷物の受け取りカウンターに行くと、「夕方の便なので、まだ荷物が保管場所から空港ターミナルに届いていない」とのこと。2時間ほど時間をつぶし、ようやくアンテナが入った2つの段ボール箱を受け取りました。

ターミナルビル2階の片隅で梱包を開け、中の緩衝材を廃棄したり、ダンボール箱の補強をしたりしました。緩衝材を捨てたのは、機材が新品と判断され、関税が取られたという話を聞いたため、いかにも使用したことがあるという状況にしたかったからです。2時間ほどかけて、2つのダンボール箱の外側と内側にセロハンテープを貼りました。これで、多少の雨に当たっても大丈夫です。

梱包した荷物

出発予定時刻の2時間半前となり、タイ航空のカウンターでチェックインしたあと、搭乗券を手に出国検査に向かいました。連休初日でしたが、思ったほどの大混雑ではありません。5分ほどでパスポートコントロールを通過し、ラウンジでオレンジジュースを飲みながら新聞を読んでいました。そうしているうちに、搭乗時刻が近づいてきたのでラウンジをあとにして、ゲートへと歩き出しました。

TG677便(B747-4D7/HS-TGK)バンコク行きは、午後5時ちょうどにゲートを離れ、さらに30分後に離陸しました。さすがに、滑走路が込み合っており、順番待ちの飛行機がたくさん並んでいるのが見えました。離陸直後は気流の悪い所を通過しましたが、そのあとは揺れることはありませんでした。

6.バンコクにて

夕食が済み、お腹もいっぱいで酔っ払っていますので、あとは寝るだけです。
2時間ほど眠ると、バンコク空港に到着です。さすがにバンコクは暑く、じめじめとした湿気もあります。
ターミナルビルを出て、
AIR PORT TAXI の列に並びましたが、客が多い割にはタクシーが少なく10分ほど待たされたでしょうか。
タクシーに乗り込み、目的のホテル名を告げて外の景色を見ていました。
そのうち「高速道路に乗っても良いか?」と聞かれ「OK」。運転手は、現金を係員に支払っていましたが、「これはメーターに含まれるのだろうか」と疑問になりました。
事前によく調べていませんでしたので、結局降車時にメーター表示+αを払いました。何度か高速料金を払っていましたが、金額がわからず適当に+αを渡したところ、ニコッと笑って「サンキュー」でしたので、相場より多かったのかもしれません。
ホテルにチェックインしましたが、機内で少々眠ったためか、0時を過ぎてもあまり眠くありません。
テレビではNHKが入るので、それを見ながらまたビールを飲み、ようやく3時過ぎにベッドに潜り込みました。
翌日は9時頃に目が覚め、朝食を摂ったあと散歩に出かけました。
屋台や市場などを見ながらブラブラしているとお昼の12時を過ぎています。
思い切って、現地の人だけが利用していそうなレストラン(というより食堂のイメージ)に入りました。
昼食を終え、一風呂浴びにホテルに戻ります。4時間近く散歩をしていたため汗をかいたので、飛行機に乗る前にさっぱりしたかったのです。

 7.オークランドへ

  ホテルの前からタクシーに乗り、30分ほどで国際線ターミナルに到着しました。
チェックインした後、成田と同じようにラウンジで過ごします。
オークランド行きの搭乗時刻が近づいて来ました。TG991便(B747-4D7/HS-TGK)は、19:05にバンコク空港を離陸しました。
あいにく、この便はバンコクからオークランドへの直行便ではなく、シドニーを経由します。
シドニー到着は、現地時刻で早朝の06:30となっています。「起こさないで」との意思表示をしておかなかったため、到着の1時間ほど前に肩をゆすられ起こされてしまいました。
軽食のあと機体は徐々に高度を下げ、06:31にシドニーへ到着しました。
シドニーでは1時間半ほどあり、一度降機する必要がありました。再び、08:21にシドニーを離陸しました。乗客はかなり減っており、多くの人がシドニーで降りたようです。
先ほど軽食を食べましたが、今度は朝食となります。軽食をパスし、朝食だけで良かったのですが・・・。
シドニー離陸から約3時間半で、オークランド到着です。ここオークランドは6回目ということもあり、勝手はわかっているつもりですが、機内持ち込みの荷物を含めると、約70Kgの荷物を抱えての入国は初めてです。

三宅さんのアドバイスにより、政府の「ニュージーランドにおける外国人のアマチュア無線運用」のホームページを印刷した紙と、「持ち込み荷物に関するインボイス(送り状)」を片手に、少しドキドキしながら税関審査に向かいます。ビームアンテナが入った長い段ボールは、特に目立つような気がしてなりません。荷物を小さなカートに乗せ「申告貨物なし」を示す緑色のレーンに沿って進みましたが、すかさず女性の係員が「この荷物はなに?」と訊いてきました。
「Equipment for the Amateur radio 」と答え、用意した紙を渡そうとしたところ、「
OK」の返事が。「えっ、もういいの?」って感じでしたが、さっさとエックス線検査を終えて到着ロビーに出ました。めでたく、関税を支払うことなく入国できました。

 8.ウェリントンへ

  この後も、ひと仕事があります。到着したのは国際線ターミナル。ここから国内線ターミナルに移動しなければなりません。
たくさんの荷物を抱えていますが、タクシーに乗る距離ではありませんし、ターミナル間を行き来しているバスも見当たりません。
しかたないので、カートを押して歩いて行くことにしました。5〜6分の距離と踏んでいたのですが、途中で荷物がずり落ちたり、ひと休みしたりしたため、15分くらいはかかったでしょうか。
ニュージーランド航空の国内線ターミナルに入り、チェックインカウンターに向かいます。
長いアンテナの段ボールと釣竿ケースは、チェックインカウンターの端にある、特別の受け入れ窓口に持っていくように指示を受けました。

ウェリントン行きのNZ445便(B737-3K2/ZK-NGM)は、15:50に離陸しました。オークランドからの所用時間は、約1時間と短いものです。機内はほぼ満席でした。

ニュージーランド航空のB737−3K2

目的地のウェリントンは、初めての訪問になります。進行左手に海岸線が見えていましたが、先端の岬を超えて少し曲がり込むとウェリントンの町並みが見えてきました。
無事、16:34に着陸しました。ターンテーブルから荷物をピックアップし、カートに載せて空港内をうろうろします。
70kg近い荷物を宿泊先まで持って行く気にはなれません。
オークランド空港の荷物預かりカウンターなら場所を知っているのですが、初めてのウェリントン空港ということもあり、どうしても見つかりません。
そこで、2階にあった観光案内所に向かいました。係りの方に「荷物を預けたいのですが」と尋ねると、1個あたり10NZ$で引き受けてくれるとのこと。機内持ち込みにしたバッグ以外の4個を預けることにしました。あとで、荷物を移動しておいてくれるとのことでしたので、カートごと引き渡し、明日の11時頃に受け取りに来る旨を伝えました。
身軽になったところでターミナルビルを出て、あたりを見回したのですが、「シャトル」と呼ばれる乗り合いタクシーのようなものが見あたりません。
多少割高かとは思いましたがタクシーを利用して、今晩1泊するゲストハウスに向かいました。
タクシーに揺られること15分くらいで、住宅街にあるゲストハウスに到着しました。

9.ケンタッキー・フライド・チキン

  このゲストハウスは、朝食のみのB&B(Bed and Breakfast :編者注)タイプなので、夕食を食べに繁華街に出かけることにしました。ゲストハウスから10分ほど歩くと、ウェリントンの街に出ることができます。
途中でケンタッキー・フライド・チキンの看板を見つけました。「まあ、はずれがない」ということで、チキンを買って帰ることに決めましたが、まだビールを買っていません。
酒屋を求めて歩きまわりました。ようやくワインショップを見つけ、店内に入ります。
「ワインでもいいか」と思いましたが、念のため店員に聞いてみるとビールは奥にあるとのこと。行ってみると6パックになっている物しかありませんでしたが、3本だけでもOKでした。


 
ゲストハウスに戻り、ビールとKFCの夕食です。
ビールがあれば何でもOKの当局ですが、海外でKFCに噛り付くのは始めてです。
最初にKFCを食べたのは、1972年、札幌オリンピックの真駒内会場(選手村だったかもしれません)ででした。
あれから30年以上も経ってしまいました。当時の90m級ジャンプ(今はラージヒル)を大倉山シャンツェで見ましたが、エース笠谷の名前が電光掲示板から消えた時の観客のため息は、今でも耳に残っているような、いないような・・・。(う〜ん、なつかしい話だ。)

翌朝は、シリアルとトースト、それに紅茶の質素な朝食を摂り、シャワーを浴びてチェックアウトしました。
昨日は利用できなかったシャトルを呼んでもらい、空港に向かいました。
空港までは17NZ$と、タクシーに比べて3NZ$しか違いませんでした。

10.チャタム行きにチェックイン

預けておいた荷物を受け取り、チェックインカウンターへ向かいます。
問題のオーバーチャージが気になるところです。
三宅さんのホームページにあった通り、搭乗する
AIR CHATHAMS のカウンターは存在せず、ニュージーランド航空のカウンターでのチェックインとなります。
カートから荷物を降ろし、計量台に載せていきます。機内持ち込みのバッグを除いて
55Kg
20Kgを差し引いて35Kgが超過分となります。

一度チェックインカウンターを離れ、サービスカウンターで超過料金の75NZ$を支払います。
少しはおまけしてくれたようです。領収書を持って再びチェックインカウンターへ。
これで、無事にすべての荷物をチャタム島までの飛行機に載せることができ、ほっとしました。
時計を見ると、チャタム島からの飛行機がウェリントンに到着する15分前となっていました。
あわてて出発ホールに入り、滑走路が見える場所に急ぎます。
ところが、そこにはすでに到着ゲートに向かう古い飛行機の姿があり、ランディングの瞬間を見ることはできませんでした。

搭乗ゲートには出発の30分以上も前に行き、1番前の席に座って搭乗開始を待ちます。
他の乗客は、10人くらいしかいません。
これなら、窓側に楽勝で座れると思っていたのですが、出発10分ほど前に、子供連れの乗客がわんさかと現れました。
5〜6人の子供たちとその保護者など10人ほどがゲートを通過した後、一般客の順番です。
このDXホリデーの主目的である、
AIR CHATHAMSCONVAIR-580 に搭乗する瞬間が、ついにやって来ました。
搭乗半券を手に外へ出ると、そこには
CONVAIR-580 の雄姿がありました。
写真を撮りたかったのですが、座席のことが気になったためタラップに足をかけます。

古い機体です。でも、立派に現役で飛んでいる機体です。先ほどゲートにいたキャビンアテンダント(のおばさん)に笑顔で迎えられ、機内に入ります。
三宅さんが座ったという、後ろ向きの座席もあります。幸いプロペラのすぐ横の非常口座席が空いていましたので、そこに座ります。プロペラ機の場合、普通の方は騒音を避けるためプロペラのすぐ横は敬遠するのでしょうが、飛行機ファンには最高の場所です。
回転するプロペラ、それに翼の前からは下を見ることもできそうです。先ほどのキャビンアテンダントが室内を点検している時に、到着後にコックピットの写真を撮らせて欲しい旨を伝えておきました。そうしているうちに客室のドアが閉まり、いよいよ出発です。

11.CONVAIR-580離陸

帰国してから調べてみたところ、この古い飛行機の製造は1956年とのことでした。
数年前にアフリカのケニアで乗った1944年製造のDC-3にはかないませんが、50年も飛び続けている頑丈な機体の持ち主です。
YS-11の丸みを帯びたプロペラとは違い、やたらと角張ったプロペラが印象的です。
そのプロペラがゆっくりと回り始めました。YS-11に似た独特のエンジン音が耳に聞こえてきます。
たまりません。
これが目的で、ここに来たのですから・・・。

エンジン音が高くなり、機体が動き出しました。ランプウェイを通り、滑走路に向かいます。
一度停止したあと、さらにエンジン音が高くなり滑走を始めます。 13:16に機体は空に浮かび上がりました。眼下には、ウェリントン近郊の牧場が見えています。
しばらくすると、洋上飛行にかわりました。当分のあいだ、雲と海しか見えません。

CONVAIR-580(チャタム空港にて)

  このCV21便(CONVAIR−580/ZK−CIB)は、チャタム島までの所用時間が2時間ほどとなります。
食べる物は何も出てこないものと思っていましたが、予想に反してサンドイッチ、紙パックのオレンジジュース、クッキーが出てきたのには驚きました。
機内は、2×2の座席が7列ほど並んでいます。
どうやら今日は満席のようです。本来客室となる部分の半分が貨物室になっており、緊急性の高い貨物が搭載されているかと思います。
島で聞いた話では、ニュージーランド本島からの船は月に1回とのことでしたから、週に5往復、本島と結んでいるこの飛行機は、島民と観光客の重要な足となっているのでしょう。

機内の様子
 

前に座っていた子供たちが、通路で大きな声を出してはしゃいでいます。
恐らく島の子供たちで顔なじみなのか、キャビンアテンダントのおばさんも放ったらかしです。
そのうちに、何冊かの本を持って回ってきました。
荷物の件で事前に連絡しておいたせいでしょうか、チャタム島を紹介した本を渡してくれました。
そのうちに、子供たちが前のほうに呼ばれました。
コックピットを見せてもらっているようです。「いいなあ」と思いましたが、さすがに「見せて下さい」の一言が言えず、あきらめて外を眺めていたところ、声が掛りました。
「この飛行機に乗るためにチャタム島へ行く」とも伝えておいて大正解でした。
9.11ニューヨーク同時多発テロ以降では、初めて飛行中にコックピットを見せてもらうことができました。

2時間の飛行もあっと言う間に過ぎ、高度がかなり低くなってきたところで、左前方にチャタム島が見えてきました。
曇っているために少し霞んでおり、はっきりとは見えませんが、チャタム島の姿がそこにあります。
風や視界の関係で、引き返すことがないように祈るのみです。
徐々に島が大きくなり、下には海ではなく陸地が広がっています。思ったより大きな島です。地面がどんどん近づき、15:40についにチャタム島に着陸しました。
滑走路の先端でUターンし、駐機場へと向かいます。
滑走路の反対側の先端から細い通路が伸びており、その先が駐機場でした。
エンジン停止後、コックピットに入れてもらい、キャプテンの座席に座ることもできました。

コックピットの様子

12.チャタム・ロッジへ

  空港には、チャタム・ロッジの女主人が車で出迎えに来てくれていました。
なんとなく、すぐにわかるものです。
空港の近くには一般の民家はなく、小さな旅客ターミナルがあるのみです。
荒涼とした土地があたりに広がっています。強風によって片方にだけ伸びた松も見えますが、
今は風が吹いていません。無風と言っても良いくらいです。ちょっと意外でした。

  チャタム・ロッジは、空港から車で10分ほどの小高い丘の上にありました。
ロッジ正面は牧場となっており、湖も目に入ってきます。
たまたま訪れた時には、その場所には牛や羊が放牧されていませんでしたが、道をはさんだ反対側では、たくさんの牛が草を食んでいました。
チャタム・ロッジのホームページ(
http://www.chathamlodge.net.nz/)には、Wingと呼ばれる棟の写真がありますが、これとは反対側の部屋に案内されました。
こちらの客室前には広い前庭があり、アンテナを設置するのに好都合です。
事前に連絡をしていたこともあり「自由に使ってよい」とのこと。
とてもありがたかったです。また、高さ8mほどの国旗(とは限りませんが)掲揚ポールが建っており、INVアンテナを建てるのにバッチリです。
当局が運用する1週間ほど前にチャタム島から「ZL7/AI5P」を運用していたRickさんも、同じチャタム・ロッジに滞在し、このポールを使用していたそうです。

部屋では、スーツケースやダンボール箱を開け、アンテナ設置の準備をします。
まず、庭にあるポールを使用して、ギボシ端子付きのINVを設置しました。
所要時間は、わずか5分。いつもこれだと良いのですが。
次に、7MHzのGPを立てるために持って来た10mのグラスファイバー製の釣竿を、前庭と牧場を隔てる木製のフェンスに括り付けます。
釣竿の先端から50cmほどエレメントを出した後、エレメントをテープで固定しながら、徐々に釣竿を伸ばしていきます。
さらに、自作のアース・マットを、半径5mの円形に配置しました。

チャタム・ロッジの入り口

アンテナアナライザでSWRを計ってみると、なぜか「2.1」。出発前に河原で実験した時は「1.1」だったのですが、非常に悪くなっています。
  このアース・マットは、移動運用を行うためバラバラに分解できるよう、電線とコネクタを使用して製作しました。
SWRが「1.1」の時に使用した電線は、AWG22という非常に細いものだったため、出発前にそれよりも太いACコードを使用したものに作り換えていました。
チェックもせずに持って来たせいで、このようなはめに陥ってしまいました。
あたりは暗くなってきており、マグライトを片手に持ちながらの作業です。

釣竿を元に戻し、突き出した50cmのエレメントを切って確認したところ、SWRは「1.2」となりOKとしました。
今回は、エレメントを短くするだけで済んだので助かりましたが、特に時間が限られた海外運用の際には、実際に電波を出してチェックしたものを持って行くようにしないといけませんね。

13.運用開始

この日は、ビームアンテナの設置はできず、7MHzのGPと、3.5〜18MHzのギボシINVを使用しました。
まず、両端の地上高が1mもない3.5MHzで波を出しました。
思った通り、誰からも応答がありません。10分ほどしつこく3.503MHzでCQを出していると、ようやく05:20UTCに、ZL1AIHからコールバックがあり、これがファーストQSOとなりました。
その後もCQを出していましたが、やはりダメでした。

アンテナ切替器を準備していないため、同軸をGPに繋がっている物に差し替え7.002MHzにQSYしました。
ヨーロッパ方面が開けており、30局ほどとQSOしたところで「夕食ですよ」との声がかりました。
ダイニングルームでは、オーナー夫婦と当局の3名分の夕食が1つのテーブルに準備されています。
これから冬に向かう秋のせいか、今日の宿泊客は当局のみのようでした。
夫妻はワインを飲んでいたのですが、当局はビールをお願いしました。

とにかく「アツアツを出す!」というのが、このロッジのポリシーのようで、出てきたスープもメインの白身魚のムニエルも「ふーふー」しながら食べました。
しかし、ボリュームがありすぎです。そんなに大喰らいでないため、ムニエルが残ってしまいました。そこで、も
う1本ビールをお願いし、ムニエルを肴に飲みながらオペレートすることにしました。
ビールとムニエルの皿を抱えて、部屋に戻ります。「ビールと無線。これぞ、海外運用の醍醐味!」です。

INVを3.5MHzから14MHzに変更し、14.020MHzでCQを出しました。
さすがに1発でコールバックがありました。
どうやらヨーロッパとJAが同時に開けているようです。
30局ほどとQSOの後、1週間ほど前にQRVしていた「ZL7/AI5P」が運用していなかったと思われるRTTYで出ることにしました。
こちらでは1時間ほど呼ばれ続け、70局とQSOできました。出発前にサポートをして頂いたJA1WSK・勝見さんとも無事にQSOできました。
そのうちRTTYでのCQも空振りが多くなってきたため、7MHzで数局の北米とQSOしたあと、10MHzにQSYしました。

この10MHzでは1時間半以上、北米からのパイルアップを受け、再度QSYした7MHzでもJAを中心に1時間ほどパイルをさばいていました。
そろそろ、現地時刻で02:00AM、さすがに長旅で疲れており、コールバックが途絶えたところで電源を落とし、ベッドに潜り込みました。

 14.ビームアンテナ設置

  「爆睡」のはずでしたが思ったより早く目が覚め、カーテンを開けるときれいな朝焼けが見えます。
QSLに良いと考え、あわてて外に出て写真を撮りました。
ちなみにもう
1つのQSLは、チャタム島まで乗ってきた CONVAIR-580 の写真を使用したものです。
複数のQSOをして頂いた局には両方のQSLを送付するように心がけますが、1回のみのQSOの方には、どちらが届くかはわかりません。

シャック (湖が見えます)

今日は天気が良さそうでしたので、さっそくビームアンテナを建てる準備に取り掛かりました。
この前庭、実は傾斜しており、ビームアンテナを建てるためのスタンドを設置するのに苦労しました。
あいにく地面が平らな場所は、JA/EU方向に対してロッジそのものが邪魔になりそうですが、仕方ありません。「前庭と牧場を隔てるフェンスぎりぎりの位置に設置すれば良かった」と後から思いましたが、建てている時には考える余裕がありませんでした。
朝食後も、引き続きビームアンテナの設置を行い、終了した時には昼を過ぎてしまいました。
苦労して建てたビームでしたが、HX-52Aを載せるといつの間にかポールがずり落ちて来る状況で、アンテナがとても低い位置での運用となってしまいました。残念!

設置したアンテナ

とりあえず障害物のない北米方面にビームを向け、18MHzをワッチすると、運良くアメリカのシグナルが聞こえてきます。
18.085MHzでCQを出すと、すぐにコールバックがありました。
空振りCQも少なく、コンスタントに局数を稼ぐことができました。
アンテナを切り替えながら、7、10、14MHzで運用し、この2日間で750局余りとQSOできました。

1人での海外運用では、ローバンドのビームアンテナはとても準備できませんが、7MHzであれば10m釣竿のGPアンテナでなんとかなるようです。
今回は丘の上ということもあり、条件が良かったことも幸いしました。
3日目の午後3時頃、7.007MHzでCQを出すと、EW2AAが応答してきました。
数分でパイルアップとなり、1〜2KHz UPを指定しますが、5分もするとヨーロッパの壁ができ上がりました。
とにかく、ものすごいパイルアップです。
+5KHzほどはこちらを呼んでいるようです。
2時間たってもなかなか減りません。後から後から湧いてくるような感じがします。

エレキーをいまだに使えず、縦振電鍵を愛用する当局の腕はそろそろ痛くなりだし、繰り出されるモールス・コードも怪しくなってきました。
でも、まだまだパイルアップです。
このパイルアップを受けるために、わざわざ海外運用を行っているのですから、ここで止める訳にはいきません。
ダイアルをUP/DOWNしながらコールサインをピックアップし、さらに1時間が経過したころ、ようやくオンフレでQSOができる程度になりました。
この3時間ほどで、ヨーロッパの局と180QSOできました。1分に1局の割合ですが、縦振電鍵ではこれが限度です。

15.チャタム島の探索

  4日目の午前中、チャタム島の中心地である「ワイタンギ:Waitangi」に行く用事があるとのことで、一緒に連れて行ってもらうことにしました。
ワイタンギまでは、車で20分といったところでしょうか。
確かに建物が集中しています。スーパーマーケットや銀行もあります。
警察にチャタム島のスタンプがあり、パスポートに押してもらえるとのことでしたので行ってみることにしました。
駐在していた警官にお願いし、スタンプを押してもらうことができました。

Waitangiのメインストリート

スーパーマーケットものぞいてみました。さすがに生鮮食料品の数は多くはありませんでしたが、冷凍食品が充実していました。
保存のため、食パンも冷凍されて売られていました。
日用雑貨から土産品まで、いろいろと扱っているようです。また、三宅さんが宿泊した「
HOTEL CHATHAMS」にも立ち寄り、土産物を買うことができました。

Freq Mode AS OC NA SA EU AF 小計
3.5 CW 0 2 0 0 0 0 2
7 CW 246 19 243 13 184 0 705
10 CW 112 21 194 0 193 1 521
14 CW 77 1 0 0 11 0 89
14 RTTY 77 2 0 0 14 1 94
18 CW 125 3 140 0 2 0 270
18 RTTY 55 1 29 0 7 0 92
Total   692 49 606 13 411 2 1,773

16.チャタム・ロッジのこと

  最後の夕食にはチャタム島特産のロブスターが出てきました。
正確に言うとロブスターではなく、ザリガニの仲間のようです。
とても淡白で、味があるのやらないのやら・・・。最終QSOは12:35UTC、7.003MHzのN6ET、総QSO数は1,773局(同一周波数・モードによる重複交信を含む)と、2,000局には届きませんでした。

ついにチャタム島を離れる日になってしまいました。
午前6時前には起きて、ビームアンテナをバラバラにします。
2時間ほどして、ようやくロッジに着いたときの状態に戻りました。いつもの目玉焼き、シリアル、トースト、それに紅茶の朝食を済ませ、チェックアウトをお願いしました。
レシートを見ると、昨晩食べたロブスターは特別メニューだったようですが、別料金は請求されていませんでした。
出発まで少し時間があったので、ロッジの写真を撮ることにしました。
入り口から中に入ると、そこがレセプションと
ダイニングルームになっています。

バーカウンター

隣はバーカウンターを備えたラウンジとなっています。
滞在中、ニュージーランド本島から来た観光客が4〜5名滞在していた日もありましたが、シーズン中はもっとたくさんの宿泊客が来るのでしょう。
午前9時を過ぎ、空港へ向かう時が来ました。ローバンドのアンテナを持って、また訪れたいですね。

 17.さらばチャタム

  空港の小さなターミナルでは、来た時に見たキャビンアテンダントのおばさんが、荷物の受付を行っています。
この小さな航空会社
AIR CHATHAMS は、家族で経営を行っているそうです。
みんな、いろいろな仕事を掛け持ちでやっているのでしょう。
足元に大きな機内持ち込みのバッグがあると邪魔なので、今日は、他の荷物と一緒に預けてしまうことにしました。

恐らくこれが、CONVAIR-580 に搭乗する最後の機会となるでしょう。
ドアが閉じられ、プロペラが回り出します。
駐機場から細い通路を通って滑走路に向かいます。
エンジン音が大きくなり、前に出て行こうとする機体をブレーキで抑えているのが良く分かります。
ブレーキが解除され、10:40に離陸しました。

機内から見たターミナル

CV12便(CONVAIR−580/ZK−CIB)は、2時間の飛行の後、12:01に、ウェリントン空港に着陸しました。
他の乗客が全て降りるのを待ち、最後の最後に席を立ちました。キャビンアテンダント、コックピットクルーにお礼を伝え、タラップを降りました。
スポットには、機体の停止位置を示す「
CV-580」の文字がありました。
いつまでも空を飛んでいて欲しい飛行機の1つです。

ウェリントンで半日ほど時間があり、国立博物館である「Te Papa」を見学しました。
ゲストハウスから歩くこと20分くらいです。非常に広い館内には、ニュージーランドの自然や、南太平洋の文化などの展示があり、興味を持って見ることができました。

翌朝、NZ418便(B737−319/ZK-NGJ)でオークランドへ飛び、さらにSQ286便(B747-412/9V-SMP)で、シンガポールへ向かいます。
昨晩は良く寝たせいか、ワインをたくさん飲んだにも関わらずあまり眠くありません。
できちゃった婚になった竹内結子主演の「いま、会いにゆきます」を観ながら過ごします。「ふ〜ん、こういうストーリーだったんだ」と・・・。
もう1〜2本の映画を観ていると、夕食の準備が始まります。
11時間という長旅の後、20:50にシンガポール空港に着陸しました。
成田行きの便まで約3時間の乗り継ぎです。

最後のSQ998便(B747-412/9V-SMV)は、シンガポールを23:58に離陸し、6時間後の06:57に成田空港に着陸し、無事帰国しました。

 

18.エピローグ

  大変長い運用記を読んで頂き、ありがとうございました。
今回のDXホリデーは、チャタム島からの運用もさる事ながら、
CONVAIR-580 という古い飛行機に搭乗することが目的の半分を占めていたため、このような飛行機のことが多い運用記になりました。

また、チャタム島から電波を出すため、アメリカのエクストラ級を取得したことも良い経験となりました。
海外運用を行うという意味では、間違いなく日本の1アマ免許より選択範囲が広がったことも確かでしょう。
またいつか空でお会いできますように。

FB−DX & 88/73 de JJ8DEN、YOSHI

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